
仕事から帰ってきた弟の話。
今日はいつもと違うチームで仕事だったらしい。
休憩時間にメンバーのひとりが「あれ、なんですかね?」と言い出した。
見ると離席している人のパソコンに小さなシールが貼ってある。そのプリクラほどのシールには何か絵が描いてあるようだった。
他のメンバーたちが雑談している。
「有名な絵なんですかね?こういう絵の名前がバシッと言えたら教養があるっていうか、なんかカッコいいですよね」
少し離れたところにいた弟に話しかけてくる。
「あの絵、分かります?」
よく見ると、なんだか見覚えがある。これは…
「ルノワールの…ムーランドラギャレットじゃないですかね…」
「!」
その場で調べ始めるメンバーたち…
「合ってる…」
「えーっ!」
「よく知ってますね!」
弟は言う。
半年前だったら答えられなかった。
息子にさんざん「びじゅチューン!」の歌や本に付き合わされた結果、いつのまにかムーランドラギャレットが即答できる自分が出来上がっていた、と。
井上亮、恐るべし…
「びじゅチューン!」のすごいのは、覚えようとしなくても歌からなんとなく記憶に刷り込まれること。
そして、その歌の歌詞が意味深でなんだか気になってしまうのだ。この歌詞にいったいどんな意味が込められているのか…と。
井上氏は想像を膨らませつつも、作品のことをきちんと調べてその背景にある材料を歌詞に盛り込んでくるのだ。
だからその歌詞が井上氏の妄想なのか何か意味があるのか、どうしてこんな設定にしたのか、このシーンの意味はなんなのか、気になってしまう。
そして弟のように、原画をそんなに見ていなくても、井上氏のアニメーションから推理して絵を割り出せるまでに育つ…
学校のテストのように覚えようとしていなくても、知るとその先が気になる、気になって見ていると自然と覚えているのである。
