
カメラが欲しい、と思った。
一番最初のきっかけは息子の運動会だったと思う。
当時弟が一眼レフカメラに凝っており、息子の運動会のカメラマンを担当してくれた。
このときの写真がとっても素敵だったのだ。
カメラを触り始めてから、弟は休みの日にときどき車でどこかに出かけることがあった。
以前、どこへ出かけているのかと聞いたら、草木や景色の写真を撮りに行っているのだと言う。
「カメラを始めてから季節を感じるようになったし、花が咲くのとかが楽しみになるんだ」と嬉しそうに話す弟を見て「なんだか楽しそうで良いな」と思ったものの、そのときの私にはカメラの何が面白いのかまったく理解できなかった。
しかし、運動会で撮ってくれた写真を見ながら、弟がなぜこの写真を撮ったのか、何をどう考えてその写真を撮ったのかを説明してくれたとき、その話がとても面白かったのだ。あ、もしかしてカメラって楽しいのかも、と思えた。
2022年になって30年後どうありたいかを考え始めてから、何か自分を表現する趣味が欲しい、と思うようになった。
それでふと、カメラを買ってみようか、と思い立った。

オンライン軍師 − 自分プロジェクトワーク "How to work"
とはいえ、カメラについては全くの素人で何を買ったら良いのかよく分からない。
お腹も大きくなって(臨月)動きにくいし、イチから色々調べるのも面倒だし、とりあえずカメラ好きの友人F氏におすすめのカメラを聞いて、手っ取り早くそれを買ってしまおう、と安易に考えた。
それで早速彼にDMしたら、2種類のカメラを勧めてくれた。
メーカーのホームページを見ながら「どちらにしようかな?」などと考えていたのだけど、文末に書かれていた「是非、電器屋さんで触って試してみてください」という文言がなんとなく引っかかっていた。
そういえば昔、弟が一眼レフを買おうか迷っていたとき、仕事(副業)で写真を撮っている友人T君(もともと会社の同期だった男性)にアドバイスを求めたことがあったっけ。
そのときは弟の質問を伝言していただけで、話の中身にはほとんど関心がなかったのだけど、急にそのことを思い出して当時のメールを読み返してみることにした。
結果的に、ここに書かれているアドバイスがすごく的確であることが、あとになって分かることとなる。
そこには
「使わなくなるのがいちばんもったいないから、姿や形が気に入って、自分の手にあったグリップ感のものを選ぶのが重要」
と書かれていた。
やっぱりカメラの実物を見に行こう、と重い腰を上げた。
とりあえず、近所のコジマ×ビックカメラに行ってみることにした。
幼稚園が冬休みで息子が家にいるので母にも付き添ってもらい息子を見ていてもらうことにした。
初めて行ったお店だったのだけど、片田舎にあるせいか平日のせいか、客がほとんどいない。
「カメラ」と書かれたフロアでカメラコーナーを探す。カメラが10個くらい並んでいる。
なにがなんだか全然分からないので、とりあえず適当に店員さんを探して「カメラを探しているのですが、カメラに詳しい方いますか」と聞いた。
その店員さんが胸元の無線で何やら囁くと、「自称カメラに詳しい店員さん」が現れた。
彼はそこに置いてあるカメラについてひととおり説明してくれた。
このとき改めて私は自分が「人気の機種です」という言葉がまったく胸に響かない人間なのだと知った。
なるべくなら人とかぶらないものが欲しいと思ってしまう面倒なひねくれ者である。
自称カメラに詳しい店員さんは、最初はとおりいっぺんの説明をしていたのだが、しばらく話していたら何かに火をつけてしまったようで、急にカメラについて熱く語りだした。
途中、母が息子を連れて「まだ?」「もう限界」と何度も言いに来たが、彼のカメラトークは緩むことなく、最終的にはこちらから「すみません、ちょっと考えてまた来ます!」と会話を断ち切る形となった。
個人的にはこういう熱い人は嫌いではないが、少し話が長すぎた。私ひとりなら良いのだが、今回は3歳の息子連れである。
店内で母と息子を探していると、いつの間にか母は階下の洗濯機コーナーで店員さんと話し込んでおり、息子はすっかりほったらかしになっていた。
そしておむつの中にうんちをしていた。
母は店員さんと話し込んでいたので先に息子と車に戻り、おむつを変えることにした。
外は雪が降っていた。
息子に「ごめん」と謝った。
